12月2日(月)「対北心理戦でロシア派兵情報が北朝鮮全域に拡散」
休戦ラインに設置した対北拡声器による心理戦で、北朝鮮兵士のロシア派兵情報が広く伝えられ、北朝鮮国内が混乱に陥っている。北朝鮮政府は奇怪な音を大音量で流すことで対北拡声器の内容を聞き取れないようにしているが、それも電気不足のためとぎれとぎれになる。最前線で20万人の北朝鮮兵士が聞くと、口伝えで瞬く間に全国に広がる。この状況で一番不安を感じるのは兵士の家族や友人である。北朝鮮当局は派兵について国民に一切知らせていないし、派兵に当たっての報酬や補償について何も約束していない。戦死してもメダルと烈士証がもらえる程度でごまかされてしまう。一方、韓国軍の兵士は月給が200万ウォン(約20万円)であり、戦地に派兵されれば何万ドルもの手当がつくという事実も対北放送で伝えている。ロシア兵に至っては兵士のなり手がいないため5万ドルの報酬に加え高額の死亡補償金もあるという情報を知った北朝鮮住民の怒りはいかばかりか。
12月3日(火)「不良品のロケット砲100基、5000人の兵士とともにウクラ戦前線で壊滅」
北朝鮮が国防科学院で新たに開発した240mm多連装ロケット砲「M1991」100基を、その運用に必要な5000人の砲兵と共にロシアに支援した。もともと休戦ラインに集中配備し、有事の際に韓国を焦土と化す最新鋭兵器として開発された。ただ、命中率が低いうえ、発射後すぐに移動すると爆発事故を起こす危険性のあるロケット砲で、その実践配備訓練中に危うく金正恩を巻き込みかける大事故を起こしていた。威力は圧倒的だが問題の多いこの兵器がロシアに提供されたわけだが、前線に投入されて1週間も経たないうちにウクライナ軍のハイマースによる先制攻撃でロケット砲100基は5000人の砲兵とともに全滅したという。北朝鮮はウクライナ戦争で、今後起こりうる有事の際、自国兵器がどのような戦果を上げられるかテストする意図を持っていたが、完全に宛てが外れたわけだ。
12月4日(水)「金正恩自慢の劣化ウラニウム弾装着対戦車兵器がドローン攻撃の標的に」
2014年頃に我々が入手した北朝鮮国防科学院資料によれば、科学院が「火の鳥4号」という強力な対戦車兵器を開発し、金正恩もその威力に大変満足したという。この兵器の特徴は、劣化ウラニウム弾を使用し、敵軍の戦車や装甲車を溶かしてしまうほどの火力を持つというもので、ロシアにも米国にもない強力兵器だという。しかし、レーダーやセンサーなどの最新装置を備えていないため、ウクライナ軍の小型ドローンの標的となり、あっけなく破壊し尽くされてしまった。さらにウクライナ軍はその映像をこれ見よがしに公開した。韓国軍にとっては、北朝鮮の最新鋭強力兵器も恐れるに足りないことが分かったと言える。
12月5日(木)「家族9人漁船脱北のキム・イヒョク氏が不慮の事故で死亡。冥福祈る」
昨年、兄弟2人がそれぞれの妻と子供、母親まで合わせて家族9人で漁船に乗り、脱北に成功したという事例があった。中心となったキム・イルヒョク、キム・イヒョクは聡明な兄弟で、住んでいた黄海道の村々の様子をスマートフォンで撮影したものを韓国のテレビで公開するなど北の実情を伝えたことで有名になったが、弟のキム・イヒョク氏が不慮の事故で亡くなった。韓国での生活にも慣れ、家計をより安定させるために、北で馴染んでいた漁業関係の仕事の幅を広げようと潜水技術を習っていた最中の事故だった。姜代表自身が脱北した時の年齢とも近く、北の実情を憂いて韓国行きを決意したという点でも共通であり、家族とともに未来を切り開いていく途上だっただけに、実に残念であり、冥福を祈りたい。
12月6日(金)「韓国の非常戒厳令の知らせに海外の北朝鮮人が驚きざわつく」
韓国大統領が3日夜に発令し翌日未明に解除された非常戒厳令のニュースに、海外在住の北朝鮮外交官、労働者などからの問い合わせが殺到している。戒厳令は戦争に準ずるような非常時に発せられるものなので、そのような事態に瀕しているのかと不安を募らせているのだ。さらに、かつて脱北者を積極的に受け入れていた朴槿恵(パク・クネ)政権が弾劾され、文在寅(ムン・ジェイン)政権に交代した途端、北朝鮮に融和的な態度をとり、脱北者を北に突き返すなど政策を逆転させたことを彼らはよく知っているため、現在、脱北者受入れ・支援政策に積極的な尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権がこれをきっかけに退陣に追い込まれ、左派政権に代わるようなことがあれば彼らの将来に関わる。ロシアに派兵された兵士を含む海外在住北朝鮮人の韓国行きを躊躇させる非常戒厳令の余波が、早く収拾され、安心して脱北できる環境となることを願うばかりだ。
12月7日(土)「金正恩の手下が韓国を共産化するチャンス?北の住民に不安広がる」
韓国での非常戒厳令のニュースに北朝鮮人の耳目が集中している。彼らの反応はいくつかあるが、1つには、この事態を受けて金正恩政権が誤った判断を下すのではないかという危惧だ。金正恩が南北二国家論を唱えだしたのも、韓米日で堅固な安保体制を構築し、軍備を強化している尹政権とは、これ以上関わりたくないと考えたためだが、戒厳令宣布と聞いて、韓国政府の基盤が弱化しており、北にとってのチャンスだと判断する可能性があるというのだ。韓国の進歩・左派勢力はまっとうな進歩・左派とは言えず、ただ北朝鮮に同調するスパイに掌握された集団であり、その集団に尹政権が骨抜きにされれば北の政権にとってはありがたいことだ。もう1つは、今回の非常戒厳令が金正恩政権の延命に繋がる可能性を憂慮するものだ。韓国の左派に対する北朝鮮住の認識は、左派が勢力を伸ばせば金正恩政権にとってはありがたく、住民にとっては苦しみにつながるというものだ。朴槿恵政権時に追い込まれた金正恩政権が文在寅政権時には息を吹き返し、北の住民にとってはさらなる受難の時となった。今回の事態がそのような過去の繰り返しにならないか、北朝鮮住民は憂慮している。
12月8日(日)「ウクライナ軍の捕虜となった北朝鮮兵士に韓国の心理戦部隊が対応中」
北朝鮮軍のロシア派兵で、死亡者も急増しているが、北朝鮮人捕虜が急増し、韓国から派遣された国家情報院と国防部の心理戦専門部隊がその尋問に追われている。そもそも北朝鮮兵士はロシア軍によって弾除けとして投入されている上、ハイマースやATACMSなどの攻撃により既に大量の戦死者を出している。そのうえ、ウクライナ政府は当初、北朝鮮人捕虜はロシアで捕虜となったウクライナ兵と交換することを計画していた。しかし、それは北朝鮮人捕虜を更に死地へ送ることになるとの韓国政府の説得に理解を示し、北朝鮮兵士をできるだけ捕虜として捉え、韓国政府に委ねるよう方針を転換したのだ。今後、多くの北朝鮮兵士が韓国へ移送されてくることが予想される。
「ピョンヤン24時」ダイジェストについて
姜哲煥氏のYouTubeチャンネルにおいて、日々韓国語で語られている最新のトピックスを日本語に要約して紹介する。
姜哲煥氏は、京都に暮らしていた祖父母と父が帰国事業で1963年に北朝鮮に渡り、1968年に平壌で生まれた。9歳の時から10年間、家族とともに悪名高い「耀徳(ヨドク)強制収容所」に収容されたが、奇跡的に釈放され、脱北後1992年に韓国に亡命。10年間の朝鮮日報記者を経て、現在はNGO団体「北朝鮮戦略センター」の代表。韓国、北朝鮮はじめ国内外に様々なレベルの情報源を持ち、信頼度の高い情報をいち早く発信している。「守る会」結成間もない時期に日本に招待し、各地で講演を行っていただくなど、「守る会」との縁が深い。
邦訳著書
『平壌の水槽 北朝鮮地獄の強制収容所』(淵弘訳、ポプラ社)
『北朝鮮脱出』(安赫との共著)上・下(池田菊敏訳、文藝春秋 のち文春文庫)
『さらば、収容所国家北朝鮮』(ザ・マサダ)