朝鮮大学校の元副学長 朴庸坤さんが朝鮮大学生を北朝鮮へ北送した時の悔恨の念を吐露されている、映像を紹介します。
ナレーション：
日本で帰国運動の中心となったのは朝鮮総連、在日本朝鮮人総連合会です。北朝鮮を地上の楽園と呼び、祖国の発展を伝えました。帰国者を送り出した人の多くは、固く口を閉ざしていますが、今回自らの体験を語る決断をした人がいます。
朴ヨンゴンさん、79歳。東京にある朝鮮大学の副学長を20年以上に渡って務めた朝鮮総連の元幹部です。朴さんは北朝鮮の国家理念、主体（チュチェ）思想を日本で広めるのに、大きな役割を果たしました。金日成とも数多く面会できる立場にいました。
帰国事業が始まった翌年から朝鮮大学で教鞭をとった朴さん。北朝鮮から送られてくる資料を信じ、祖国の発展を評価する論文をいくつも書きました。
当時、北朝鮮は工業政策の増大を図る、チョンリマ運動を推進。５ヵ年計画の目標を２年半で達成したと発表しました。
朴さんは1960年の論文で次のように記しています。
「朝鮮の勤労大衆は比類のない創造力を発揮し、大成果をおさめた」
「国民経済のすべての分野において、決定的に勝利した」
朴ヨンゴンさん：
あぁ、これだけ見事に発展してるんだ。それに対して誇りすら持ちましたし、やはりわが民族はこれだけやれる能力と素質を持ってるんだという誇りも感じていたんです。
社会主義の中でも最も模範的な社会主義として建設されていると、こう信じて疑わなかったんです。
ナレーション：
朴さんたちが信じ続けた社会主義の発展。帰国を希望する人の数は減っていきましたが、それでも途絶えることはありませんでした。
1972年、朴さんは教え子を自ら説得し、北朝鮮に送り出しました。この年は金日成誕生60周年の年。在日の若者や学生、およそ260人が金日成にお祝いの手紙を手渡すため帰国し、そのまま北朝鮮に残りました。このとき朴さんは幹部から指示され、学生たちが北朝鮮に行くよう一人ひとり説得してまわりました。
朴ヨンゴンさん：
社会主義建設の先頭に立って、君たちが自分たちの才能を十二分に発揮すれば、これは君たち自身にとっても良いことであり、また朝鮮の建設にも役立つと。私はもう、それは本気で、その通りだと思って、そういう説得をしました。
ナレーション：
教え子を送り出した２年後。朴さんの北朝鮮への訪問が初めて実現。教員訪問団の一員として認められたのです。
発展した祖国を見ることができる。しかし、朴さんは初めて見る祖国の現状に衝撃を受けました。土を耕すやせ細った牛。電気も水道も行き渡っていない農村。理想とかけ離れた現実を目の当たりにしたのです。
朴ヨンゴンさん：
自分が日本で書いたあの論文と、自分の頭の中で描いた、あの社会主義、これがほとんど無かったということ。言うなれば、自分があれほど（書いた）模範的な社会主義祖国とは、遠く及ばない現実が、目の前に広がっていたので、大きな、それこそ、衝撃と、落胆と、言い知れぬ悲哀と、こういう様々な心情におちいったわけであります。
ナレーション：
朴さんにはさらに衝撃を受ける出来事がありました。金日成に絶対的な忠誠を誓うよう求めた、10大原則を現地で告げられたのです。党の指導員から無条件に従うよう求められました。指導者を神格化したと言われる原則は、社会主義を信じる朴さんにとって受け入れがたいものでした。
祖国の発展を担う人材として送り出した教え子たちは、どうなっているのか。朴さんは北朝鮮で彼らと再会し、言葉を失いました。教え子たちは、朴さんが思い描いたような生活を送ることは許されていなかったからです。
朴ヨンゴンさん：
彼らのおかれている現状をかなりたくさん見ました。彼らは自分たちの希望通りの大学にも行けなかったし、仮に大学を卒業しても自分たちの希望する職場にもつけなかった。そういう状況に置かれていました。
帰国した学生に対して、ほんっとうに、これは消すことのできない罪を犯したんだと。そういう思いで・・・、悩み続けました。