統一日報より北朝鮮の人権問題に関する重要記事

◆模範脱北者の孤独死 必要なメンタルケアの強化(統一日報 2022年11月15日)

(引用元:http://news.onekoreanews.net/detail.php?number=90676&thread=01r04

 先月中旬、ソウル市内で死亡したAさんは、脱北者の中でも模範的な定着者とされてきた。しかし、Aさんの人生は悲惨な形で幕を下ろした。陽川区の賃貸マンションで発見された彼女の遺体は既に白骨化していた。享年49歳。冬服を着ていたため、昨年の冬ごろに死亡したものと推定される。死後1年以上が経過した可能性もあるという。

 Aさんが存命であれば、今年で脱北してからちょうど20年目を迎える。脱北者の成功モデルとされてきたAさんだが、様々な経歴がそれを裏付けている。脱北者としては珍しく国際会議の発表者として招かれ、看護師として勤務する傍ら学業に励み、大学を卒業した。

 統一部は、Aさんを「脱北者(北韓離脱住民)専門カウンセラー」に抜擢した。脱北者の韓国定着を支援する役割だった。洗練された話し方ときちんとした身なり、確かな業務遂行能力、人に配慮する性格など、多方面から優れた人物であると評価された。脱北者の間では「私たちの中で最も韓国化した人」と言われたほどだ。

 ところが、2017年に変化の兆候が現れた。Aさんは同年、南北ハナ財団を退社し、脱北者コミュニティとの交流も絶った。辞職の理由は不明だが、脱北者の間では「米国に行くため英語の勉強をしている」とのうわさもあった。

 Aさんの名前が再び聞かれるようになったのは昨年だ。政府の「福祉危機世帯監視ネットワーク」に発見されたのだ。月額1万4000ウォンの健康保険料、月額15万ウォンの賃貸料(管理費含む)を滞納していたためだ。

 統一部はAさんをぜい弱階層の調査対象に加えた。しかし、不幸にもAさんに会えた者は誰もいなかった。関係者が何度か接触を試みたものの、話し合いはすべて不発に終わり、統一部の報告書には「連絡が途絶えた」と記録されていた。

 居住地域の住民センターもAさんとの接触を試みた。福祉部から5回の危機情報を受けた住民センターが自宅を訪問し、手紙を送ったが会うことは出来なかった。閉ざされていたAさんの自宅の扉が開かれたのは、延滞していた家賃がきっかけだった。物件の所有権者であるソウル住宅都市(SH)公社が住宅明け渡し訴訟を起こし、SHが勝訴した後だった。10月19日、関係者が強制的に扉を開けたところ、Aさんが既に死亡していることが確認された。

 脱北者の孤独死は後を絶たない。統一部によると、19年と20年はそれぞれ7人、21年は3人、今年に入っては12人(10月末)が孤独死を遂げた。脱北者コミュニティが3万人を超えることを踏まえるとさほど多いとは言えないが、しかるべき対策の見直しが急務であるとの指摘もある。

 脱北者は一般的な韓国人に比べて経済的基盤がぜい弱で、より孤独を感じやすい立場にある。単身世帯の割合は脱北者全体の33%だ。多くの脱北者が越境の過程でトラウマを負い、北韓に残してきた家族に対する罪悪感を抱えている。脱北者に対する定着支援の一環としてメンタルケアも一層強化する必要がありそうだ。
(ソウル=李民晧)