尾っぽのないけだものたち『北朝鮮 いまだ存在する強制収容所』 

北朝鮮人権問題

「尾っぽのないけたものたち」

先に完全統制区域のことを、一九九九年にソウルに亡命した金龍氏が「閉ざされた区域」と呼んでいたことを紹介し、姜哲煥氏、安赫氏、安明哲氏が暴露した山の中の北朝鮮の強制収容所を表すのに最適な表現であると述べた。

しかしその後、キム・ジョンヨン著『平壌の女』(上下、一九九五年十二月刊、高麗書籍)を読んで、金龍氏のいう「閉ざされた区域」の意味を私が十分理解していなかったことに気がついた。金龍氏が上記三人の手記を読んで、現実とは天地の差があると批評したという意味がつかめないまま、本稿を書いたのであるが、キム・ジョンヨンさんの『平壌の女』を読んで、天地の差がある(すなわち「耀徳収容所は天国だ」)という意味が初めて理解できたのである。

『平壌の女』上巻二三七頁に記された ”地下三百メートルの「尾っぽのないけだものたち」” に、大略次のような衝撃的なことが記されていたのである。

一九八四年頃、彼女(著者キム・ジョンヨンさん)が、友人の金策工業大学の地質学部の教授から聞いた話である。

その教授はあるとき、地質調査のた慈江道のパルウォン金鉱に出かけた。地下百メートルに降りたところで、労働者たちが作業をしていた。軍人たちが銃を持って警備していたので質問したところ、そこが政治犯収容所であることがわかった。労働者たちの足は鎖でつながれており、顔は無表情であった。夕方になって教授は調査を終え、地上に上がった。労働者の作業も終わったので、地上に上がってくるものと思ったが、誰も上がってこなかった。彼は案内人の軍人に尋ねたところ、彼らは地下の宿舎に帰ったのだという。

翌日の夕方、教授は金脈を探すのだといって軍人の案内人を伴い、地下の宿舎に誘導させた。

地下三百メートルのところに驚くべき宿舎があった。ひと一人が入れるくらいの狭い檻がいくつも並んでいた。ちょうどその中に入れられている一人一人に、にぎりめし一つの夕食が配られているところであった。囚人たちはまさに檻の中のけだもの扱いであった。教授は心底ふるえあがった。囚人たちは陽の光を見ることなく、地下に閉じ込められていたのである。足枷をはめられて―――。

閉ざされた区域いというのは、地下収容所のことを指すのであった。このような地下生活を強いられている囚人だちから見れば、耀徳収容所が天国に見えるのは道理である。

私は姜哲煥、安赫、安明哲氏の伝える収容所の非道さに打ちのめされ、北朝鮮の強制収容所は百パーセント明白になったと思い、また、説明してきた。姜哲煥氏らの伝える革命化区域の非道さだけで、北朝鮮の強制収容所を理解するに十分だと考えてきた。しかし完全統制区域の収容所は、革命化区域のそれとは質的にちがうことが、キム・ジョンヨンさんの証言で、いまや明白になった。「一度入ったら二度と出てこられない」という意味がはっきりした。

金龍氏が体験した完全統制区域の第十四号管理所は炭鉱であったが、宿舎は地上にあった(『月刊朝鮮』二〇〇〇年五月号、手記参照)。したがってキム・ジョンヨンさんが地質学者から聞いたパルウォン金鉱の収容所こそ、完全統制区域の最も恐ろしい形態といってよいであろう。私は、私の北朝鮮強制収容所の理解はまだまだ不十分であったことを思い知らされた。キム・ジョンヨンさんや金龍氏の証言を手がかりに、完全統制収容所の研究に力を注がなければならないと思った。

北朝鮮 いまだ存在する強制収容所―廃絶のために何をなすべきか』 P61-63

冒頭の写真は『北朝鮮全巨里(チョンゴリ)教化所―人道犯罪の現場』P140-141 から一番イメージに近い絵を引用ています。

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