4月14日(月)「先月捕らえられた2人の北朝鮮漁民の身が危ない」
先月7日、韓国領海内で漂流中だった北朝鮮漁船を韓国軍が拿捕した。乗船していた2人は脱北ではない、漂流していただけだと述べたというが、このような場合、少し時間を与えて真意を確かめる必要がある。なぜなら、北から南に来てすぐは、仮に脱北を希望していたとしても、正直に言えない場合が多い。さらにこの2人は既に捕らえられてから1か月が経過したが、その間に韓国社会を経験して脱北の意思を強めている可能性もある。もちろん、それでも北に帰りたいと言うのなら送り返せばよい。文在寅政権時代には帰りたくないと抵抗する青年を、無理やり引き渡したことが判明し、彼らは処刑されたとも言われる。少しでも韓国に滞在した者が北に送り返されれば、韓国社会に汚染したとして収容所に送り込まれるのは間違いない。もし6月の大統領選挙で共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表が当選したら、脱北者は有無を言わせずにみな送り返すことだろう。今回捕らえられた2人については、現在、大統領権限代行の韓悳洙(ハン・ドクス)国務総理が、彼らを決して無理に送り返すことはない、と明言してほしい。
4月15日(火)「後継者をめぐる金一族の権力闘争、姿を現した」
以前、北朝鮮のテレビに、舞台の中央でにこやかにダンスを踊る女の子を眺めながら、金正恩が満足げな笑みを浮かべる姿が映し出されたことがあった。その隣には、一緒にほほ笑む金与正(キム・ヨジョン)と、やや白けた表情の李雪柱(リ・ソルチュ)が座っていた。金正恩の表情からして、この女の子は金正恩の子だろう、だが誰が産んだ子なのか、と話題になり、その後まもなく金ジュエが登場した。このあたりの事情を取材したところ、ダンスを踊っていた女の子は玄松月(ヒョン・ソンウォル)が産んだ金正恩の子であり、この映像がきっかけで金ジュエが表に出てきたのだった。金正恩にとっては2人とも可愛い娘だが、正妻である李雪主が玄松月の娘に注目が集まることに不満を表し、これをなだめるために金ジュエにスポットライトが当たるようにしたというのだ。李雪主には息子がいるが、この子は先天的に障害を持って生まれた子だということが確認されている。また、最近また出産したとされているが、どうやら李雪主の子供は、金正恩の後継者となることを牽制されているようなのだ。実際、今のところ玄松月が最もカメラに捉えられているし、昨年夏、中朝国境付近の大洪水の現場を金正恩がボートに乗って視察した際にも玄松月が同行していた。このこと自体、玄松月の産んだ子が後継者となった時に、その母親を称える対象とするための準備作業だと見ることもできる。
4月16日(水)「中国が『北朝鮮有事の際は介入しない』と公式表明」
習近平が金正恩に対して、北朝鮮有事の際、中国は軍事介入しないと通報した。従来、中国と朝鮮は「唇滅歯寒(唇が無くなれば歯が寒い)」の関係と言われ、いくら気が進まなくても協力しなくてはならない間柄だったが、今や両国関係は破綻した。2011年に金正恩が政権についた後、張成澤(チャン・ソンテク)が止めたにも関わらず、習近平政権がスタートした2014年に核実験を行い、習近平の怒りを買った。その後、金ヤンゴン統一戦線部長官が金正恩を説得して習近平と和解したかと思われたが、2018年3月、金正恩がトランプ大統領と会うと言い出したため、習近平が金正恩を急遽、北京に呼びつけた。同年5月、再び習近平が金正恩を大連に呼びつけた時は、経済支援をする見返りに、台湾有事の際、日本の介入を阻むため、北朝鮮の東海岸の港に中国人民解放軍に使用させろと迫った。金正恩は、一旦これを受け入れたが、2019年2月の中朝首脳会談で、中国の内政介入を警戒した金正恩が、東海港の使用を拒んだのだ。2022年8月には金正恩が中国瀋陽で心臓手術を受けた際、習近平に便宜を図ったことから、再び習が東海港の使用を打診したが、結局拒否したのだった。昨年からは、ロシアと手を組み、ウクライナ戦への派兵まで行った北朝鮮に、中国はもはや未練はない、今後、北朝鮮が米国に攻められようが、韓国に攻められようが、中国は軍事介入しないと突き放したということだ。
4月17日(木)「金一族の後継者問題、全体像が見えてきた」
金正恩は40代という年からすれば後継者問題はまだまだ先のことだと言えるが、周知のとおり健康状態からして先は長くないと思われる。上述のように金ジュエが華々しく登場したものの、女性が後継者になることはやはり考えられず、ジュエの位置づけはあくまでも金正恩にとっての金与正、つまり後継者の補佐役であろう。では本命は誰なのか。これも上述のように李雪主の産んだ男の子は先天的な病気のため後継者にはなれない。玄松月の息子は16歳であり、14歳の妹もいるため、この兄妹を金正恩・与正兄妹のように後を継げばうまくやれそうだが、金ジュエを既に表に立たせているため、この構図は難しそうだ。また、金ジュエを表舞台から下ろしてしまえば、正妻である李雪主も立つ瀬がなくなるため抵抗するだろう。もう一人リョ・シムが産んだ14歳の息子がおり、実は金正恩がこの子を最も寵愛しているという。顔だちも良く、聡明で、金正恩と性格も似ているからだ。ただ、リョ・シムは日本からの帰国者の娘であるため、彼女の子を後継者とすることは難しい。金正恩の母・高容姫(コ・ヨンヒ)も、実は日本からの帰国者であるために、北朝鮮では今でも金正恩の母は公表されていない。金正恩の余命から考えて、玄松月の息子か、リョ・シムの息子かの二択になると思われるため、現在、平壌は玄とリョの対決に衆目が集まっている。
4月18日(金)「金日成の誕生日『太陽節』に中国が北京の北朝鮮大使館を封鎖」
金日成の誕生日である4月8日「太陽節」に、北京にある在中国北朝鮮大使館が出入り禁止となった。金日成は、過去に毛沢東、周恩来、鄧小平、江沢民を相手にしてきたに重要人物であるだけに、彼に関する行事には、必ず中国共産党幹部が訪れ、報道陣もそれを世界に伝えるのが通例だったが、今年はそれを中国政府が止めさせたのだ。以前、玄松月が三池淵(サムジヨン)管弦楽団を引き連れて北京を訪問したものの、中国側に無理な要求をして問題を起こし、公演をせずに帰ってきてしまったことがある。これにより中国政府も北朝鮮を疎ましく思っていたのだが、それでも金日成・金正日の記念日には在中国大使館・領事館に祝電や花輪が贈られていた。ところが、今年は人の出入りも祝電や花輪の配達も一切禁止となって、中朝関係がいかに地に落ちたかが分かる状況となった。
4月19日(土)「先代否定を1年で撤回…住民は呆れるしかない」
昨年来、金日成・金正日に対する偶像崇拝、偉業賛揚を止め、金日成バッチを金正恩バッチに付け替えさせるなど、先代否定を続けてきたが、1年で方針転換し、「太陽節」や金日成年号を復活するなど、先代賛揚を再開した。原因は、金正恩政権に対する民衆の不平不満が全国で高まっているためだ。黄海北道の沙里院(サリウォン)、平安北道の新義州(シニジュ)、咸鏡南道の咸興(ハムン)、咸鏡北道の清津(チョンジン)など、全国の地方都市で金正恩を誹謗する落書きやビラや流言飛語が蔓延している。最近、ロシアに派兵され戦死した遺体が平壌に移送されたが、家族には何の補償もなく、対価としてロシアから得られた莫大な資金は、すべて平壌防御のための防空網や対空ミサイル導入に費やされた。食糧は地方都市だけでなく、平壌でも不足しており、労働党幹部えさえ食うに困っており、統一戦線部幹部の家族が餓死したという話もある。先日、貨幣を増発して公務員の月給を5千ウォンから5万ウォンに引き上げたが、1ドルが8千ウオンから3万5千ウォンに跳ね上がり、経済は完全に破綻した。このような絶望的な状況の中で、辛うじて頼れるのは先代の偉業だと考えたのか、今年4月15日の1週間前から盛んに金日成に関するドキュメンタリー映像をテレビで放映していた。金正恩は、祖父・金日成の知らない間に金正日が妾に産ませた私生児であり、祖父と一緒に移した写真1枚すらない。こんな男が先代の偉業にすがったところで誰も見向きもしないし、何の効果も得られないに違いない。
4月20日(日)「最近の金正恩の姿から健康悪化説拡散」
最近また、金正恩の健康悪化説が拡散している。4月15日「太陽節」に、金正恩は祖父・父の眠る錦繍山(クムスサン)記念宮殿には行かず、平壌の新都市・和盛(ファソン)地区のマンション竣工式に出席した。その姿をよく見ると、少し前に比べて随分痩せたことが分かる。数年前、脂肪切除手術を受けて激やせしたが、その後すぐにリバウンドしたことがあった。今回も手術をしたのか、あるいは癌などの重病にかかったのか。金正恩の健康に関しては米国などの情報機関でも常に観察している。今回、金正恩の健康悪化説が日本、韓国、アメリカ、、ヨーロッパなど、世界中で話題となっているのは、情報機関による傍聴などに基づいた情報がリークされものなのではないか。
「ピョンヤン24時」ダイジェストについて
姜哲煥氏のYouTubeチャンネルにおいて、日々韓国語で語られている最新のトピックスを日本語に要約して紹介する。
姜哲煥氏は、京都に暮らしていた祖父母と父が帰国事業で1963年に北朝鮮に渡り、1968年に平壌で生まれた。9歳の時から10年間、家族とともに悪名高い「耀徳(ヨドク)強制収容所」に収容されたが、奇跡的に釈放され、脱北後1992年に韓国に亡命。10年間の朝鮮日報記者を経て、現在はNGO団体「北朝鮮戦略センター」の代表。韓国、北朝鮮はじめ国内外に様々なレベルの情報源を持ち、信頼度の高い情報をいち早く発信している。「守る会」結成間もない時期に日本に招待し、各地で講演を行っていただくなど、「守る会」との縁が深い。
邦訳著書
『平壌の水槽 北朝鮮地獄の強制収容所』(淵弘訳、ポプラ社)
『北朝鮮脱出』(安赫との共著)上・下(池田菊敏訳、文藝春秋 のち文春文庫)
『さらば、収容所国家北朝鮮』(ザ・マサダ)