2025/5/26(月)「金ジュエは幸福の女神か疫病神か?」
北朝鮮では男尊女卑の風潮が強い。正月の朝、最初に女性が戸を開けると1年中良いことがないと言われたり、車の前の席に女性が座ると縁起が悪いから女性は後部座席に座れというように、女性が前に出ることをタブー視する。そんな北朝鮮で、金ジュエだけは、金正恩の娘だということで特別扱いされてきた。しかし、軍で大事故が起こるたびに金ジュエが立ち会っていたことから、彼女に対する不信感が軍や世間に漂っている。去年、人民軍空挺部隊の落下訓練で数十人が死傷する事故があった際も、今回の駆逐艦の進水式で多くの人が事故に巻き込まれて亡くなった際も、金ジュエが金正恩と共に現場視察していた。一時は金ジュエがいることで金正恩が人をあまり殺さなくなったとも言われたが、そもそも北朝鮮は軍隊に限らずあらゆる場面で安全を考えない社会なので、事故はつきものだ。それなのに軍事訓練やミサイル発射実験の現場に幼い娘を同席させること自体、父親のすることではない。相次ぐ大事故に、よりによって金ジュエが同席していたことから、彼女は疫病神なのではないかという噂が蔓延するようになったのだ。

2025/5/27(火)「駆逐艦の横倒し事故で300人が調査対象に」
進水式に失敗して駆逐艦が横倒しになった清津(チョンジン)港での事故で、清津造船所の洪イルホ主任が逮捕された。これを皮切りに、当造船所の党秘書、保衛部長、関連技術者らを含む約300人が調査対象となっている。事故を調査した労働党軍事委員会は、船体が横倒しになり、船首部分には水が入ったものの、10日ほどで復旧が可能だと発表した。しかし、船を引き揚げるための先端重機もないのにどうやって引き揚げるというのか。さらに、事故の実態が明らかになったところによれば、この事故で亡くなった人は数百人に上り、事故現場は修羅場と化し、金正恩は怒り狂っていたという。軍艦一つまともに進水できない北朝鮮の現実と、事故の惨状を知るにつけ、いよいよ金正恩政権も終わりか、と嘲弄する声が住民の間に広がっている。激怒した金正恩は、6月中旬に党の第12次全員会議を開くという。重要な行事であり失敗は許されない進水式で大事故が起きた責任を、政治的に問うつもりのようだが、自分が無理を強いたがゆえに起きた事故の責任を現場に問うという現実が嘆かわしい。

2025/5/28(水)「ついに命綱の軍需工場も全面ストップ!『苦難の行軍』再来か?」
経済がどん底に陥っている北朝鮮で、唯一の頼みの綱だった軍需工場の稼働が全面ストップした。「苦難の行軍」が頂点に達した1997年、慈江道(チャガンド)の江界(カンゲ)、万浦(マンポ)を中心に大量の餓死者が発生した。この時、不足する食料に泥を混ぜて苦境を凌いだという逸話が「江界精神」と呼ばれて称えられ、映画まで作られた。しかし、長らく金日成に仕え、主体思想を確立したと言われる思想家の黄長燁(ファン・ジョンヨプ)氏が、この時期に江界の軍需工場を視察したところ、工場は完全にストップし、配給も止まって大量の餓死者が出ていた。そんな中で、一人の労働者に「金正日将軍様はお元気ですか」と尋ねられ、金王朝は人民の精神まで奴隷化してしまったことに衝撃を受けたという。それから約30年が経った今、軍需工場が再び全面ストップとなった。これらの軍需工場は、昨年夏の大水害で壊滅的な被害を受けたところでもあり、中国からの工作機械の輸入が止められ、資金も枯渇してまともに復旧できていないまま、全面ストップに至ったのだ。折からの経済難に軍需産業まで壊滅となっては、もはや北朝鮮の経済は崩壊するしかないだろう。

2025/5/29(木)「北朝鮮国家保安相の李チャンデ接見をプーチンが拒否!朝ロ間もいよいよ?」
北朝鮮とロシアの関係にいよいよ亀裂が入り始めたようだ。国家保衛相の李チャンデがロシアで開催された国際安保会議に出席し、ロシアのセルゲイ・ナリシキン対外情報局長を始め、ニカラグア、ベトナムなどの情報関係者と意見交換をした。しかし以前、外務大臣の崔善姫(チェ・ソニ)がロシアを訪れた際には彼女を歓待したプーチンが、今回は崔外務大臣より格上の李国家保衛相とは顔も合わせず、冷遇に終始したという。今回、李国家保衛相がロシアを訪問したのは、現在ロシア国内に20万人ほど滞留している出稼ぎ労働者や脱北者の扱いについて協議するためだった。ロシアは中国と異なり、脱北者を北朝鮮に強制送還せず、国連難民協約に従った対応を行ってきた。最近ロシア国内で出稼ぎ労働者の集団離脱が増加し、ウクライナ戦争に派兵されたが戦線を離脱して捕らえられた北朝鮮兵士までいる中で、本国への送還を強く要求するために訪れた李国家保安相に対し、ロシア側はこれに応える様子すら見せなかったのだ。ロシアもウクライナ戦後は、韓国やヨーロッパ諸国などとの経済交流が重要であるため、脱北者を犯罪者として北朝鮮に送り返すことはできないものと見られる。

2025/5/30(金)「またしても軍事境界線で及び腰になる嘆かわしい韓国軍の言動」
軍事境界線で韓国軍による銃器の誤射が発生し、またしても大型拡声器で北に謝罪放送するという情けない事件があった。大型拡声器はそんなことに使うのではなく、休戦ライン付近に勤務する北朝鮮兵士に対し、人民生活に回すべき資金で大型駆逐艦を建造した挙句、進水に失敗して大枚を海に捨てる事件があった、といった現状を知らせるべきなのではないか。李在明政権になるからと、韓国軍はすすんで骨抜きになっているのか。しかし、政治と軍事は区別すべきだ。軟弱な姿を見せることは却って北朝鮮を挑発する。金正恩は「ウクライナを放っておけば、その様子を見て韓国軍が勇敢に立ち向かってくるかもしれない」と言ったが、ウクライナ軍の何十倍も優秀な武器と有能な兵士のいる韓国軍をなめているとしか思えない。国防部は些細な事件の謝罪などせず、北朝鮮兵を南に寝返らせるための効果的な宣伝放送を研究し実行してほしい。

2025/5/31(土)「駆逐艦の進水式の失敗は李雪主のせいなのか?」
北朝鮮住民の間で、なぜ清津港で5千トン級もの駆逐艦の進水式をしようとしたのか、その理由が話題になっている。北朝鮮では2003年以降、船舶を建造したというニュースが流れたことがない。従って、どこの造船所で建造したとしても今回のような失態は起こりうる。北朝鮮の代表的な造船所には、西海側の南浦(ナンポ)、東海側の清津、ロシア国境から近い羅津(ラジン)などがあるが、ロシアから最新の造船技術を取り入れなければならないのであれば、清津より羅津の方が有利なはずだ。それなのに1990年代後半以降、造船の実績がない清津造船所で巨大な船を建造するにはそれなりの理由があったに違いないのだ。なぜよりによって清津だったのか。それは清津が李雪主(リ・ソルチュ)の出身地だからではないか、という噂だ。清津港で挙げた功績を、金ジュエの母である李雪主をお陰として称えるためではないかというのだ。しかし、造船所の建造設備も1990年代後半の「苦難の行軍」の時に盗まれ、売り払われ、資材もなく、人材もない状況だ。そこで、無理な指示に従って何とか建造したものの、事故を起こして多数の犠牲者を出し、その責任を取らされて現地の党幹部や造船関係者が処罰され、収容所に送られる現実に、地元住民の不満と怒りは日増しに高まっている。

2025/6/1(日)「北朝鮮中央放送が駆逐艦進水式失敗の責任者の逮捕を伝える」
北朝鮮ではこれまで大事故が起きても、その責任者の個人名を上げて「誰々が逮捕された」というような報道は行ってこなかった。ところが、今回の清津港での事故では、報道の中で逮捕者の名前が次々に読み上げられ、住民の怒りが一層高まっている。そもそも事故の一番の責任者は、経験も設備も資材も人材もない造船所に5千トン級という巨大な駆逐艦の建造を命じた金正恩にある。また、その周囲のイエスマンたちが現場に対して無責任な指示・督促をしたのが事故の原因だと言える。米国の国際戦略研究所(CSIS)によれば、人工衛星写真を分析した結果、横転した船の損傷は船全体に及んでおり、復旧は困難だという。人民の生活を顧みず、巨額の資金を投じて無意味な造船を行ったこと、さらには、上層部による人災と言ってよい事故の責任を、末端の関係者の名前まで読み上げてなすりつけている現状に、住民は腹を据えかねているのだ。

「ピョンヤン24時」ダイジェストについて
姜哲煥氏のYouTubeチャンネルにおいて、日々韓国語で語られている最新のトピックスを日本語に要約して紹介する。
姜哲煥氏は、京都に暮らしていた祖父母と父が帰国事業で1963年に北朝鮮に渡り、1968年に平壌で生まれた。9歳の時から10年間、家族とともに悪名高い「耀徳(ヨドク)強制収容所」に収容されたが、奇跡的に釈放され、脱北後1992年に韓国に亡命。10年間の朝鮮日報記者を経て、現在はNGO団体「北朝鮮戦略センター」の代表。韓国、北朝鮮はじめ国内外に様々なレベルの情報源を持ち、信頼度の高い情報をいち早く発信している。「守る会」結成間もない時期に日本に招待し、各地で講演を行っていただくなど、「守る会」との縁が深い。
邦訳著書
『平壌の水槽 北朝鮮地獄の強制収容所』(淵弘訳、ポプラ社)
『北朝鮮脱出』(安赫との共著)上・下(池田菊敏訳、文藝春秋 のち文春文庫)
『さらば、収容所国家北朝鮮』(ザ・マサダ)