ウクライナ国民のロシアへの強制移住に対する抗議声明

ロシアのウクライナ侵攻から、早、半年が経過したが、ロシア軍の侵略行為は、国際社会の非難をよそに、止むどころか、戦闘地域を拡大させ、破壊の度を強めている。私たちは、これ以上、ウクライナ国土への破壊行為と犠牲者の拡大を望まない。ロシアに対し、戦闘行動の停止を強く求めるものである。私たちが懸念しているのはそれだけではない。ロシア軍が、不法占領地域のウクライナ住民を、ロシアへ強制移住させている問題である。

国連難民高等弁務官事務所の発表によると、8月20日現在で、ウクライナ避難民は1千万人を超え、うち国外へ逃れた人は19日現在で339万人にも達した。しかし、問題はロシアへ避難した人々の安否である。ウクライナのゼレンスキー大統領は7月13日、韓国のソウルで開催された「アジア指導者会議」でのビデオ演説で、ロシア軍が侵攻以来、「数十万人の子供を含む約200万人のウクライナ人を強制的に連れ去り、数万人のウクライナ人がロシアの選別収容所に収容されている」と告発した。また「強制送還された人々は、通信手段を奪われ、身分証明書を取り上げられ、脅迫され、ロシアの辺境に連れて行かれ、母国へ帰ることが困難になっている」と語り、自国民の救援を世界に向けて訴えた。

ブリンケン米国務長官も同日付で「ロシアはウクライナにおける組織的な選別作戦で、26万人の子どもを含む90万~160万人の罪のないウクライナ国民を拘束し、ロシアに強制移送した」と推計値を公表。「保護対象者の不法な移送と国外退去は、民間人の保護に関するジュネーブ条約第4条約(戦時における文民の保護)の重大な違反であり、戦争犯罪である」と断じた。国際刑事裁判所(ICC)は強制移住を「人道に対する罪」と位置付け、ウクライナ検察は「ジェノサイド条約で禁止されている子供の強制連行」として捜査中である。

一方、ロシア国防省は6月18日に、強制移住について、「ウクライナ国民を救うための包括的支援の措置の一環」と主張し、7月13日時点では、ウクライナ国内から「子供約40万人を含む約250万人の避難民を人道的措置で受け入れた」と公表している。しかし、マリウポリ市議会は3月19日時点で、ロシア側の行為についてSNSで「第二次世界大戦中のナチスによる強制連行のような蛮行が21世紀に起きている。市民がよその国へ連れ去られるとは、想像を絶する事態だ」と声明を発している。

私たち人権団体は、ロシア側の主張に強い懸念を覚え、ロシアへの強制移住に強く抗議する。何故なら、ロシアは旧ソ連時代に、敵国の住民を自国に強制的に連れ去り、捕虜を強制労働に使った歴史を持つからだ。第二次世界大戦前、ソ連は西の国境付近にいたドイツ人やオランダ人をシベリアに強制移送させ、スターリン時代には朝鮮系の人々を中央アジア付近に強制移住させた歴史がある。第二次世界大戦時に捕虜になった日本軍将兵約57万5千人以上の人々が、強制労働に従事させられ、約5万8千人の将兵が寒さと飢えと重労働で命を落としている。

海外報道によれば、強制移住させられたウクライナ人は、ロシア情報機関が管轄する選別キャンプに収容され、非人道的状況下で拘束され、民間人と反体制思想者か否かで分けられる。その際に、尋問や拷問を受けた人々もいたという。また、選別後、自国国境から1万6千キロ以上離れた極東のサハリンの地に送られた人々もいる、と伝えられている。

私たち「守る会」は、ウクライナ国民のロシアへの避難や移住は、ウクライナ政府又は、赤十字国際委員会などの立ち合いの下に「本人の自由意志か否かを確認し、移住後のウクライナ国民の人権が守られているかどうかも確認できなければならない」と考える。日本は、63年前の1959年・昭和34年に始まった在日朝鮮人と日本人配偶者ら9万3340人を北朝鮮へ送る「北朝鮮帰国事業」で、北へ渡った人々がどのような暮らしをしているか、日本政府も国際機関も確認できないために、帰国者が人権を奪われた生活を余儀なくされている悲惨な実例を知っているからだ。

ロシア政府が言う「ウクライナ国民を救うための包括的支援の措置の一環」が事実ならば、強制移住されたウクライナ国民が、今どこの施設に、どういう形で収容され、どのような生活を送っているのか」、ロシア政府は詳細を直ちに公表すべきだ。以上の点について、私たちは、強制移住させられたウクライナの人々に対するロシア政府の人道的待遇と早期帰還、ロシア政府の人道的措置と善処、並びに国際機関の介入を強く求めるものである。

2022年8月31日 北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会