『在日コリアンの100年―過去、現在、そして未来へ』P105-110より、今もそのまま通用してしまう朝鮮学校改革案を下記に掲載します。
これらの改革案はことごとく潰され、今も朝鮮学校建設に尽力した在日一世、二世を政治犯収容所で大量虐殺した相手に教育援助金をもらえたとひたすら感謝を強要し、苦しい自分たちを助けてくれる愛する祖国だと、教え込む教育が続けられています。60年代後半に、北朝鮮に在日同胞の民族教育が強奪されたことを教えず、祖国は民族教育を守ってくれたと教え込むのは、民族詐欺でしょう。
「岡山朝鮮初中級学校」発展のために(試案)
まえがき 岡山朝鮮学園理事長 李康烈 二〇〇四年九月
八月五日の「岡山朝鮮初中級学校同胞父母集会」後一か月が過ぎようとしています。まれに見る多くの同胞が参加した会議は、同胞たちの学校の現状と未来に対する関心の深さを示したものと思えます。
会議では今後、学校問題に関して広範な同胞たちの参加のもと、議論を活発に行うことを一致した意見とし、そのための協議会を組織することに大方合意したものと思われました。
また会議でビジョンについての質問も多々ありましたが、私は会議においてこれが始まりであり、今後同胞たちの議論に基づきそれを集約し、学校運営の方向性を決める手順で進めるべき旨述べました。
その後、「議論を進めていくためにも、今後の学校運営の”骨子”でも”たたき台”として示すべきだ」との意見もあり、熟慮のうえ、いくつかの問題提起をすることにしました。
これを参考に忌憚のない議論が行われることを願います。
I 岡山朝鮮初中級学校の歴史と現状
1 歴史(省略)
2 現状(省略)
3 学生数減少の原因
授業料、政治色、通学距離、教育の質などさまざまな理由を挙げられるが。根本問題としては、旧教育理念、教育内容が時代の要求、同胞社会の要求に合わないものになっている。
少子化の波が学生数減少の大きな要因であることは間違いないが、これをもって現状に至る深刻な状況を招いた主要因とすることはできない。
多くの卒業生を輩出しながら、彼らの子弟だけでも朝鮮学校に入学したのならば現状は変わっていたといえる。まして、総聯が打ち出している民団系、ニューカマー、帰化者等の子弟が多少なりとも入っていたらさらに好転したかもしれない。
問題は時代の流れとともに加速した「朝鮮学校離れ」の社会的背景には、朝鮮学校に対する要求の変化があり、これに民族教育が応えられなかったということである。この問題は朝鮮学校の父母はもちろんのこと、在日朝鮮人一般の意識の変化に関わる事柄である。(以下略)
冷戦の終結、統一志向への南北関係の劇的変化(二〇〇〇年六・一五南北共同宣言)、同胞社会での世代交代と定住志向の固着化等は、朝鮮学校に対する学父母の要求を変化させた。
その要求は
①一世の時代とは異なり、居住地としての日本永住を選択した世代として「汎民族教育」を求める。共和国を唯一の祖国とするのではなく、統一祖国を前提とするものであり、共和国海外公民としての教育だけではなく、南北朝鮮を祖国として教育することを求める。
②日本社会の市民としての意識をもち在日コリアンの立場から、南北両本国からの独自性をとり、日本社会に生活するための知恵、能力、たくましさを備え、また世界にも通用する国際化時代の朝鮮人教育を求めるものである。
またこの教育理念に基づいた教育内容の改革を求めているのである。
このような教育になってこそ、民団、ニューカマー、帰化人の子弟にも門戸を開く教育になる。
昨今、全国各地で行われている民族教育論議はこの問題が中心となっており、これら民族教育の生き残りと再生をめざして作成された「提案」「要望書」等は、在日朝鮮人社会の変化に実質的に対応する、新たな民族教育理念の策定が時代の緊急な課題であるとしている。またこの教育理念に基づいた教育内容の改革を求めている。
しかしながら、これらの提案は、総聯からは同胞内部を「混乱」させるようなものとして扱われ、極力、在日同胞社会に知れ渡ることのないように扱われてきた経緯がある。
そのため、在日朝鮮人社会では各地で行われてきた議論、提案等が有効に生かされず埋没され、民族教育の将来に対する不安と共に不満が悶々として残されている。
民族教育に対する同胞社会の意見と総聯中央との見解の差は、現状をどれほど切迫したものとして直視できるかどうかである。
同胞社会/
学父母は直視し、我々の代で終わらせることはできないとしている。廃校をわが身を削るものと捉え根本的原因と対策を考える。
総聯中央/
一時的なものとし、朝日国交正常化がなされればあらゆる問題が解決すると主張している。教育理念、内容などの根本問題とは捉えていない。
「共和国公民教育」としての教育理念はかえる考えはなく、一部であると思われるが共和国と運命を共にすることを考えているフシがある。
学生数の減少を食い止めることができず、自主運営のできない地域では、統合あるいは廃校もやむを得ないものと思っている。
Ⅱ 未来像と対策
前述した通り学生数の減少、財政危機などを克服し岡山朝鮮初中級学校が、21世紀を生き抜くための対策を立てることは緊急課題として要求されている。
今後、中四国地域で唯一存続できる可能性をもつ学校として、同胞社会の拠点としての位置を考慮する場合、その役割は計り知れないものがある。
そのためにも、広く同胞社会から支持される教育理念と教育内容を兼ね備えた学校として、再生しなければならない。
1 教育理念
●現教育理念
現在の朝鮮学校の教育理念である「朝鮮民族の自覚と誇り、素養と資質を育む」とは、あくまでも、朝鮮民主主義人民共和国公民としての教育を前提にする。
運営母体である総聯の教育綱領は、歴史的に一貫して有能な民族人材、真の祖国・朝鮮民主主義人民共和国を愛する人材を育てることを教育理念としている。
これは総聯綱領に基づくものである。
*綱領
1.我々は愛国愛族の旗幟の基、全在日同胞を朝鮮民主主義人民共和国の周りに集結させ、同胞の権益擁護と主体偉業の継承完成のために献身する。
2.我々は民主主義的民族教育を強化発展させ、広範な在日同胞子弟を民族性を所有し知徳体を備えた有能な民族人材、真の愛国者として育てる。(朝鮮民主主義人民共和国)
それはまず、共和国の政治指導者の肖像画を教室に掲げ続けたところに端的に表現されている。
朝鮮学校の象徴でもある共和国の政治的指導者の肖像画はその理念の証である。
二〇〇三年度に実施された一部教育改編により、少なくとも初級学校と中級学校の教室から初めて取り外されたのである(校長室と職員室はそのまま)。しかし、その「代わり」として故金日成主席、金正日委員長の絵画(写真)を掲示板などに掲げるようにし、高級学校と朝鮮大学校は従来通りとなっている。これは組織としての教育理念は変更しないことを意味する。
また、子どもたちに直接接している教員の第一資質として求められているのが、金正日委員長への忠誠心と信念であり、そのための学習が組織的に義務づけられている等、いたるところに表れている。教育理念の変更がない限りこの状態は続くであろう。
この朝鮮学校の教育理念の問題は、過去の冷戦時代の共和国と韓国の対在日朝鮮人政策と密接なかかわりを持っている。
従来、韓国政府は在日朝鮮人を「いずれ同化する」ものとし、棄民政策を打ち出して朝鮮学校に援助はせす、逆に「北の共産主義教育」を施す学校として排除、攻撃してきた。これに対して共和国政府は朝鮮総聯結成と共に、在日同胞の子女教育に対する強い要望を積極的に支持し、苦境に喘ぐ朝鮮学校を甦生させた教育援助費と奨学金を送り続けてきた。その総額は二〇〇三年四月現在、一四九回の送金で四五一億六一六万三〇〇〇円となっている。
この共和国からの送金が朝鮮学校発展の基礎になったのである。以後、朝鮮総聯主導で共和国の教育方針にならい、教育理念、カリキュラムと教育内容、運営方式などが決められていくのである。これにより朝鮮学校は在日という民族教育の枠にとどまらず、社会主義祖国の諸政策を実施すべき学校としての性格を鮮明にし、在日の子どもたちを共和国の海外公民として、本国同化主義教育を本格的に推し進める使命を付与されたのである。
これは時の国際政治の冷戦構造、その際たる犠牲者としての朝鮮民族の分断、対立構図という時代背景からのものではあったことは否めないが、その時代背景そのものが激変した21世紀の今日に至るまで、その束縛を解き放すことができないでいる。
●教育理念の根本的変更は新生の出発点
現行の教育理念の限界を直視し、同胞社会の要求に則したものとすべきである。
朝鮮学校の教育理念
①在日朝鮮人社会に根ざした真に汎民族的教育として、
②それはまた社会の一地域住民、国際人の一員としての自覚と意識を持たせることも目的としたもの、
③その土台の上で、日本社会と国際化の時代を生きる人間としての資質を培養することを目的とするべきものである。(以下略)
2 カリキュラムと教育内容(概要)
(1)共和国公民教育からの脱皮(略)
(2)教科書/授業
①朝鮮語教育
民族教育の原点であり本質である。
今後の朝鮮語教育の向上にはネイティブスピーカー(母国で生まれ、母国語で育ち話す人)による教育が必須となる。
②「社会」科目を中心とした全教科書の検討
忠実性教養を伴うものを削除し、本来、共和国と韓国を同時に扱うべきところを一国のみ扱っている所を検討する。
③授業用語として朝鮮民主主義人民共和国、韓国、主席、委員長、大統領等の呼称を使用する。
現在使用している「元帥」「将軍」等は、本来、軍事用語なので実情に合わず使用しない。
④英語、数学、日本語教科は日本の検定教科書使用を検討
⑤英語教育に関しては、幼少期に基礎会話を習得させるためのカリキュラムが要求される。
これにより生徒はバイリンガルからマルチヘの基礎を習得することになる。これもまた魅力ある民族教育を志向する上で重要なポイントとなる。
(3)少年団
これらを「ピンナラ生徒会(仮称)」等民族的な色彩を前面に出す児童と生徒の自治会とする。在日の少年組織としての民族色の顕著化を推し進める。
(4)課外授業
高級部三学年時の修学旅行先は共和国・ピョンヤンであるので、今後、中学校段階での修学旅行は韓国(歴史的遺跡等)に行くことにより、祖国をよく理解することができる。
すでに他校ではホームステイ、サッカー交流、文化交流等、多様な目的で韓国訪問を定期化しているが、岡山朝鮮初中級学校も積極的に進めるべきである。
そのためにも韓国にも姉妹校をつくるべきである。
今後本校が中心となり共和国の姉妹校を含んだ生徒による南北交流を進め、統一に向かう橋渡しの一翼を担う。
(5)他
①学校行事
学校行事でも共和国、韓国の一方にかかわる行事はなくし、民族共通行事として8・15解放記念日、3・1独立記念日、6・15南北共同宣言、または、学校創立記念日などを正式行事とするべきである。
②学校全体の雰囲気も民族教育としてのカラーにするべきである。
校長室、教員室の肖像画、また肖像画の代わりとして教室に飾られた絵画などもはすすべきである。
3 教員(省略)
4 運営
(1)収入源の確保
―地方自治体補助金の大幅増額
―朝鮮民主主義人民共和国、韓国政府民間援助
共和国からのさらなる援助はもちろん、韓国政府からの援助も求める。
(2)学校運営の正常化
学校法人の定款に則り、学校運営権を学校法人に定められた理事会が持ち、総聯教育局との協力関係を築いて運営を正常化させるべきであろう。それにより同胞学父母の意思を反映した新たな教育理念を実施することができ、かれらの理解と支持を得ることによって、学校の支持基盤を再構築することができる。これはまた、学生数の増加につながることになる。
むすび
今後五〇年存続できる教育の場として、岡山朝鮮初中級学校を後世に残すのは他でもないわたしたち岡山同胞学父母であります。
子どもの未来と無限の可能性のために、これを機に21世紀型の民族教育を実施すべき広範な範囲での論議が、すべてのタブーを排除し活発に行われることを願うものです。