ロシアのウクライナ国民強制移住に対する抗議声明 2022年10月11日

北朝鮮人権人道ネットワーク
北朝鮮の強制収容所をなくすアクションの会
特定非営利活動法人 北朝鮮難民救援基金
特定非営利活動法人 北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会

 ゼレンスキー大統領は7月13日、韓国のソウルで開催された「アジア指導者会議」でのビデオ演説で、ロシア軍が侵攻以来、「数十万人の子供を含む約200万人のウクライナ人を強制的に連れ去り、数万人のウクライナ人がロシアの選別収容所に収容されている」と告発した。その中で「強制送還された人々は、通信手段を奪われ、身分証明書を取り上げられ、脅迫され、ロシアの辺境に連れて行かれ、母国へ帰ることが困難になっている」と語り、自国民の救済を世界に向けて強く訴えた。

 これに対しロシア国防省はこれより前の6月18日、強制移住について「ウクライナ国民を救うための包括的支援の措置の一環」と主張し、7月13日には、ウクライナ国内から「子供約40万人を含む約250万人の避難民を人道的措置で受け入れた」と公表した。また、ロシアのネベンジャ国連大使は9月7日の安保理会合で、占領地でのロシア軍によるウクライナ市民への尋問について「現地で行われているのは尋問ではなく登録の手続きだ」と反論し、「欧米はロシアをおとしめるために新たな偽情報を広めている」と主張した。

 しかし、マリウポリ市議会はすでに3月19日時点で、ロシア側の行為についてSNSで「第二次世界大戦中のナチスによる強制連行のような蛮行が21世紀に起きている。市民がよその国へ連れ去られるとは、想像を絶する事態だ」と声明を発している。ブリンケン米国務長官も7月13日、「保護対象者の不法な移送と国外退去は、民間人の保護に関するジュネーブ条約第4条約(戦時における文民の保護)の重大な違反であり、戦争犯罪である」と声明を発した。ハーグの国際刑事裁判所(ICC)は、ロシアへの強制移住を「人道に対する罪」と位置付けている。

 私たち北朝鮮の人権問題に取り組む4団体は、国際機関の調査を拒むロシア側の主張に疑念を覚え、強制移住に強く抗議するものである。何故なら、ロシアは旧ソ連時代に、敵国の住民を自国に強制的に連れ去り、捕虜を強制労働に使った歴史を持つからだ。第二次世界大戦前、ソ連は西部国境付近にいたドイツ人やオランダ人をシベリアに強制移送させ、第二次世界大戦時に捕虜になった日本軍将兵57万人強制は労働に従事させられ、5万8千人の将兵が寒さと飢えと重労働で命を落としている。さらに朝鮮系の人々を中央アジアに強制移住させた歴史もある。

 海外報道によれば、強制移住させられたウクライナ人は、ロシア情報機関が管轄する選別キャンプに収容され、非人道的状況下で拘束され、民間人と反体制思想者か否かで分けられる。その際に、尋問や拷問を受けた人々もいたという。また、選別後、自国国境から1万6千キロ以上離れた極東のサハリンの地に送られた人々もいる、と伝えられている。アメリカのリンダ・トーマスグリーンフィールド国連大使は、9月7日の国連安保理会合で、「こうした活動はロシアの支配に従わない個人を特定するのが目的で、ロシアへの併合に備えるものだ。見せかけの住民投票を行おうとしている」と述べた。その上で「強制的な移送などは国際法上の戦争犯罪に当たる」としてロシアを非難し、国連による調査受け入れを迫った。

 私たち北朝鮮の人権問題に関わる4団体は、ウクライナ国民のロシアへの緊急避難や移住は、ウクライナ政府、または、赤十字国際委員会などの立ち合いの下に「本人の自由意志か否かを確認し、移住後のウクライナ国民の人権が、守られるかどうかも確認して行われなければならない」と主張する。

 なぜなら日本政府も赤十字国際委員会も、63年前の1959年(昭和34)年に始まり、1984年(昭和59年)に終わった「北朝鮮帰国事業」で、北朝鮮へ渡った人々がどのような暮らしができるかを詰めないままに、社会主義を信じ、北朝鮮政府と朝鮮総連が宣伝する「地上の楽園の暮らし」ができるとの宣伝を鵜呑みにして、北朝鮮へ渡ることを希望した在日朝鮮人と日本人配偶者ら9万3340人を「人道的措置」として、朝鮮労働党の一党独裁体制下の北朝鮮へ送ってしまった経験があるからだ。この結果、帰国者の多くが一切の自由を奪われ、貧困にあえぎ、強制収容所に入れられたり、精神を病み精神病棟送りにされたりするなど、人権を奪われる生活を余儀なくされている悲惨な実状を把握している。

 ロシア政府が言う「ウクライナ国民を救うための包括的支援の措置の一環」が事実ならば、強制移住されたウクライナ国民が、「今どこの施設に、どういう形で収容され、どのような生活を送っているのか」、ロシア政府は詳細を直ちに公表すべきである。また、強制移住者への国連調査団の調査受け入れと報道機関の取材を認めるべきだ。以上の点を踏まえた上で、私たちは、ロシア政府の善処と帰国を希望するウクライナ人全員の早期帰還を強く求めるものである。

                               
                                    了

【4団体連絡先】

1,北朝鮮人権人道ネットワーク(陶久敏郎理事長)
(nknet@freeml.com)
〒779-1403 徳島県阿南市山口町内田20
📞0884-26-0090

2,北朝鮮の強制収容所をなくすアクションの会(小川晴久代表)
(nofenceinfo@gmail.com)
〒102-0093 東京都千代田区平河1-5-7-203
📞:090-9329-7734

3,特定非営利活動法人 難民救援基金(加藤博理事長)
(nkkikin98@gmail.com)
文京区本郷1-33-3 キャスティール本郷801
📞:03-3815-8127

4,特定非営利活動法人 北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会(佐伯浩明理事長)
(mamorukai-kanjikai@googlegroups.com)
〒102-0093 東京都千代田区平河1-5-7-203
📞:072-990-2887(関西事務所)